人の尊厳を大切にする  ユマニチュード

「お母さんの言うことちゃんと聞いてね。大変なんだからね。」

     「うん、そうする。よくやってくれる。」

「私なんかたまーにしか来れないんだから。」

     「うん。お母さんよくやってくれる。」

「いつも一緒にいるのはお母さんでしょう?」

     「うん、いつも一緒だ。お母さんいなきゃ困る。」

「だったら、どうして昨日床屋に行かなかったの?」

     「・・・・・・・・」

「お母さんに言われたでしょう?床屋。行かなきゃダメじゃない。」

     「・・・・・・・・」

                  「○○さん~どうぞ~」

「はーい。・・・呼ばれたよ。行って。湿布たくさんあるからいらないって

言うんだよ」

     「うん」 

             その人は、 処置室の中へ時間をかけてゆっくり入っていった。

 

「はあ~・・・・」    彼女は閉まったドアの前のベンチに座り、雑誌を読み出した。

             漏れてくる微かな会話に興味は無さそうだ。 

 

               私は、だんだん胸が苦しくなって来た。

             誰かにギューッと心臓を捕まれているような、嫌な気分だ。

 

「終わった?・・・・・・ありがとうございました~。」

      「うん」

「じゃ、会計行くから」 

 

             その人は、杖をついて10㎝くらいの歩幅でゆっくりついて行く。                                            彼女は、危なっかしいその様子を遠くから無表情で見ている。

             「大丈夫?」とも「気をつけてね」とも言わない。

             そして待合室のソファにやっと彼がたどり着いた。

             結局、彼女は1度も彼に触れなかった。

             私は奥歯をぐっと噛みしめ、悲しい気持ちで診察室へ。

 

ユマニチュード という意思疎通法

 ・ 目線を合わせ続ける

 ・ 穏やかに話しかける

 ・ ゆっくり触れる

これだけで人は落ち着き、相手を信頼し、お互いが穏やかになる。

彼女がこれを知ったら、きっと何かが違ってくるだろうなあ~

 

 

いっしょに ゆっくり poco a poco